第五十七話 嘘
町の人たちは、誰もが皆、暗い顔をしていた。
否、町全体が、罪悪感に押し潰されそうな空気だった。
エイト達が一軒の家に近寄った、その刹那に、カーテンを閉められた。
何がどうなっているか、分からなかった。
「何よぅ・・・・。私たちは汚くないわ。」
ゼシカが不満そうに、己の頬を膨らませる。
そんな彼女を、ローズは宥めた。
実は言うと、彼女も不愉快さを感じていた。
一同が、一斉に思った事は、
早くこの町から出たい・・・・。
だった。
すると、幼い子供の鋭い声が聞こえた。
「あ・・・・!!」
小さな子供が、駆け寄ってくる。
振り向いてみると、あの時ククールが庇った子供だった。
「さっきのお兄ちゃん!!」
叫び、ふら付いた足取りで駆け寄ってくる。
危なっかしい足取りで、思わず不安を覚えた。
息を切らし、エイト達に挨拶をした。
「どうしたの?親御さん達心配してると思うよ?」
エイトが、背丈に合わせ、しゃがみ込んだ。
「ごめんなさい・・・・。でも言いたい事があってきたんだ!!」
お礼か・・・・?そう思い、ククールは前に出た。
子供は顔を上げ、ククールを見上げた。
首が疲れそうだったので、しゃがみ込み、話に耳を傾けた。
「実は、頼みたい事があってきたんだ!!お兄ちゃんは強いから!!」
また、面倒な事に巻き込まれそうだな・・・・・。
「頼みたいこと・・・・?何かあったのか?」
しかし、断る事は、一切考えていなかった。
子供は、一瞬考え込み、俯いた。
「実は・・・・」
その時だった。
風が、通り過ぎ、影が目の前に現われた。
影は、人間ではない。
悪魔の姿をしており、眼は、血の色に染まっていた。
嫌な気配がし、子供を後ろへ庇った。
子供は、少し怯え、後ろで震えていた。
「危ないから、どいていろ。」
それだけ言うと、ククールは、剣を引いた。
その姿に、子供は見惚れ、目を輝かせた。
エイト達も、各々の武器を引いた。
「・・・・まったくもう!!厄介ですわね!!」
ローズが髪を掻き分け、溜め息混じりな言葉を吐いた。
槍を構え、疾風の如く突きかかった。
しかし、ひらりと軽い足取りで、身を素早く交わした。
「-っ速い!!」
聞こえないように呟いた。
大きな建物が、一つだけ建っている。
住民を巻き添えにする訳にはいかなかった。
もし、巻き添えを喰らって犠牲になったら、ククールの後ろで隠れている子供も・・・・・。
しかしこのままでは、不利なのは分かっていた。
「ククール!!ジゴスパークは控えて!」
今にも、何か、大規模な事をしそうな彼を引きとめる。
「分かってるつーの!!」
遠い方で、苛立った声が聞こえた。
ゼシカが鞭を振るい、懸命に影を打ち叩く。
鞭は生き物の様に、軌道を刻み、残像を残す。
地面に鞭を叩き、そこから地割れが起こった。
「双竜打ち」
蛇・・・否、大蛇が咆哮を上げ、影の身体を絞めつける。
しかし、何事も無かったかのような、態度を見せた。
影は一匹だというのに、相当強い。
影に意思が有るかのように、自由気侭に動いている。
ヤンガスが、蒼天魔斬を発しても、虚しく跡を斬るだけだった。
「・・・・・光・・・・・」
ククールの後ろに隠れていた子供が、独りでに呟いた。
「え・・・・?」
振り向き際に、子供は目を輝かせ、言った。
「お兄ちゃん!光の魔法唱えられる?弱点は光だと思うんだ!!」
言われるままに、光呪文・・・グランドクロスを唱える準備を始める。
この呪文は、威力は凄いが、ジゴスパーク為りの消耗が激しい。
しかも、詠唱が長い為、隙を見て攻撃されるかもしれない・・・。
悩んでいる内に、後ろに居た子供が、速くエイトの所に行った。
「お兄ちゃんが、魔法使うみたいだよ。助けてあげて!」
頼むように、言った。
エイトは頷き、援護を始めた。
意識を呪文だけに集中させ、魔力を解き放つ。
「哀れな魂よ。神の裁きにより、今此処で封印をしてやろう。」
朧気に呟き、掌に光が宿ったのを感じた。
そして、ブツブツと、本格的な詠唱が始まった。
それを十字に切った。
光が交差し、轟音と爆音が響いた。
光によって産まれた呪文は、影を覆い尽し、跡形も無く消し去った。
塵となって、灰にと化した。
「や・・・・やったー!!」
子供が歓声をあげ、ククールに近寄った。
その時だった。
一人の若い女が、子供に向かって歩き出した。
そして、頭を叩き、怒声を上げる。
「コラ!何やってるの!?馬鹿な事は止めなさい!」
子供は、目に涙を溜め、女に謝った。
「ごめんなさい・・・・。お母さん・・・・。」
どうやら、母親のようだった。
しかし、年が幾らなんでも若すぎる。
そして、エイト達にきつい視線を向けた。
「あんた達、この子に、これからは構わないで!!」
「な・・・・!!」
すぐさま、ヤンガスが納得いかないような声を上げる。
しかし、強引に母親は手を引き、歩み出した。
「待ってくれ。」
ククールが、その前に立ちはだかった。
顔を顰める彼女に対しては、見て見ぬふりをした。
「何が起こってるんだこの町では?」
しかし、女は忽然と無視をし、足を速めた。
「待ってくれって言ってるだろ!?」
今まで聞いたことの無い、威厳を込めた声だった。
女は一瞬怯え、立ち止まった。子供も、驚いていた。
「私は何も知りません。」
顔を背けるが、エイト達には分かっていた。
これが、嘘だという事を・・・・。
「何があったんです?」
ククールと入れ替わるように、エイトが話し掛ける。
愛想が良いので、少し女は安堵していた。
「・・・・・・・黙っていても、どうせ分かるわ・・・。」
諦めたような口調で、事情を話しだした。


